Yoshida Kikaku Co.,Ltd.

コーイチのボーイズライフ

2000年10月~2002年5月
この連載は、2000年10月号~2002年5月号まで新潮社の雑誌「ENGINE」に連載したものを再録したものです。

第7回 東京オート・サロン 2001年04月

オタク・カメラマンの熱気

東京オートサロンに行ってきた。チューニング・カーやカスタム・カーの世界が、今どうなっているのか知るのが楽しみで、幕張メッセまで電車に乗って。
でも、モーター・ショー初心者には、どうやって楽しんでいいのやら、ひたすら広い会場をさまよい歩くばかり。かんじんのクルマもじっくり見ることができなかった。と、いうのが正直な感想。
だって、来てるお客さんの多くが、どうみてもクルマよりコンパニオンの女のコ目当てで、どのブースもコンパニオンを撮影するのに夢中、その数たるやハンパじゃない。ショーの会場があんなことになっているなんて思いもしなかった。自動車ショー・ビギナーは、彼らオタク・カメラマンの熱気に圧倒されるばかり。
今まで、雑誌の記事でしか見たことがなかったのだけれど、やっぱり、モーター・ショーというのは、雑誌で楽しむのに限る。と、今回つくづく思った。あれじゃ、クルマなんかどれがどれやら、さっぱりわからない。同時に、若い男のコ(なかには中年のオヤジもいたが)は、クルマ以上にキレイな女のコが好きなのだと再確認した。
僕が行ったのは、イベント最終日。日曜日だったせいもあるのだろうが、来場者の数も多く、大盛況だった。車検制度がゆるくなったこともあり、チューニング・カーやカスタム・カーが社会的認知を受けてきた結果だとも思う。トヨタ、ホンダなどの大メーカーが大きなブースを出していたのが何よりの証拠だろう。
次に行く時は、ガイド兼コーディネーターの人をちゃんと頼んで、もっと楽しめる会場のまわり方をしたい。だれか、そんなツアーを組んでもらえないものだろうか。別料金を払ってでも参加したい人がたくさんいると思う。でも、クルマより、コンパニオンを見るツアーのほうが人気が出たりして。優等生のトヨタですら、レース・クイーンのコスプレ・キャバクラのショータイム状態。こういうのを楽しみに来ているお客さんも多いのだろうし。

これでもか、のミニバン

さて、クルマ。会場で圧倒的に多く目立っていたのは、ミニバンのカスタム・カーだった。ローダウンしてエアロパーツを山ほど装着したミニバンが、これでもか、これでもか、というくらい並んでいた。いまやカスタム・カーの主流は、走りを追求したスポーツ・カーではなくて、みんなで楽しむミニバンになりつつあるのですね。でも、けっしてキャンプに出かけるようなタイプではなくて、なんかワルそうなヤツ。ここに来ている人たちは、運転する楽しさや、スピードより、個室としての空間をクルマに求めているのだろう。チューニング・カーの世界ですら、価値観が変わってきているのか。
僕の若い頃、ミニバンはなかったから、ワンボックスといえば、ハイエースだった。いまや、自動車ライフも様変わりしてしまった。エンスーなスポーツ・カーに憧れるのがクルマ好きの王道だった時代より、クルマ生活も多様化したということだろうけれど、このままミニバンが増え続け、ミニバンばかりで街中が埋めつくされたらどうするのだろう。この国は、極端から極端だから、そうならないとも限らない。昔、白いセダンが大流行したこともあったっけ。
個人的に言わせてもらえば、エアロパーツでコテコテにカスタムしたミニバンに乗るって、レトロな軽自動車に乗っているのと同じくらい頭がよさそうに見えない。それって、僕の偏見なのだろうか。最近は新車のときからメーカー純正エアロパーツ、コテコテのミニバンが発売されていたりして、ちょっと心配だ。将来は、シンプル、普通に見えるようにするためのカスタムが流行るっていうのが、笑い話でなくなるかもしれない。ま、それも好き好きってことか。

自動車雑誌中毒

自動車の趣味の多様化は、本屋に行って自動車雑誌の多さを見ると肌で感じることができる。普通(?)のクルマ雑誌とならんで、「VIPナントカ」とか「RVナントカ」とか、僕には理解不能なジャンルのクルマ雑誌が売られている。こうした雑誌は、コンビニでもよく目にするから、かなりの部数が売られているのだろう。
僕じしん、クルマ雑誌は毎月7、8冊は購入しているから、かなりヘビーな自動車雑誌中毒者だと思うが、ジャンル的にはせまい。スポーツ・カーが好きで、自動車のことを書いた文章を読むのが好きなのだ。僕は本当は自動車雑誌を批評する自動車雑誌評論家になりたい……。
男性は雑誌を読まなくなったといわれるが、ことクルマに関しては例外ではないか。一般誌や、ファッション誌を読まなくなっただけで、いわゆる専門誌は確実にある一定の読者をつかんでいる。クルマももちろん専門誌の一分野だが、ひとつのジャンルでこれだけたくさんの雑誌が存在するのは、ちょっと驚きである。
東京オートサロンに話をもどそう。自分の趣味に合うか合わないかは別にして、こうしたイベントが盛り上がるのは、クルマ好きにとってうれしいことだ。ファッションの世界では、こうしたショーに何万人も集まるなんて、あり得ない。ファッションにたずさわる人間としてさびしいことだけれど。だって、わざわざ入場料を払って洋服の展示会を見に来てくれるとは思えないでしょう。
でも、クルマだと人が集まる。人は服には夢を見ないけれど、クルマにはまだ夢を見ることができる、ということだ。逆に言えば、いつか人はクルマに夢を見なくなる時代が来る、ということ。少なくとも僕は、ガソリンを燃料とする自動車がなくなったときのことを想像するとゾッとする。電気自動車の12気筒はフェラーリの夢を見させてくれるのだろうか?

走らせるだけが趣味じゃない

正直に言って、僕じしん、クルマ雑誌はくまなく読むけれど、実物の自動車への執着がどんどんなくなってきている。僕のまわりのクルマ好きたちも、最近同じようなことを言っている。理由としては、休日の朝、早起きして箱根にスポーツ・カーを走らせに行ったり、サーキット走行会に参加するのがおっくうになってきたのだ。
運転を楽しむためのクルマを所有すると、それを走らせるためだけにどこかに出かけねばならならい。ちょうど、大型犬を飼うと運動のために散歩に連れていかなければならないのと似ている。体調と気分が良いときは楽しいけれど、義務となると、心の負担になる。
運転するためだけにクルマを走らせるというのが、純粋なクルマ趣味のひとつのかたちだとすると、それって、永遠に続けるエネルギーをもつのはたいへんだ。スポーツ・カーを手放す気にはなれないけれど、それを走らせることだけが、自動車趣味じゃないと思いはじめた。
人それぞれ、クルマの楽しみ方が違って当然。新車の状態でコレクションしている人だっているのだし、走るオーディオと化したクルマに乗っている人だっている。人の趣味のことは、とやかく言うべきではない。と、いうのが、東京オートサロンで得た結論か。

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2000年10月
第1回 テスタロッサが止まらない
2000年11月
第2回 ミラノはスマートがいっぱい
2000年12月
第3回 レクター博士の石鹸
2001年01月
第4回 F1日本グランプリ
2001年02月
第5回 最後の晩餐
2001年03月
第6回 ファッション・ケア レジュイール
2001年04月
第7回 東京オート・サロン
2001年05月
第8回 サイド・バイ・サイド
2001年06月
第9回 オホーツク劇場を目指して
2001年07月
第10回 コレクション・ツアー
2001年08月
第11回 オートバイ
2001年09月
第12回 赤ちょうちん
2001年10月
第13回 悩み続けて18年
2001年11月
第14回 キッチン・ヴァージン、料理に挑む
2001年12月
第15回 最近、どんなスーツ着てますか?
2002年01月
第16回 隠れジンギスカン・マニア
2002年02月
第17回 カバン・コレクション
2002年03月
第18回 ピニンファリーナ・コレクション大中小
2002年04月
第19回 ナッパ・レザー
2002年05月
最終回 ウシ君と全部で6匹のネコ

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