Yoshida Kikaku Co.,Ltd.

コーイチのボーイズライフ

2000年10月~2002年5月
この連載は、2000年10月号~2002年5月号まで新潮社の雑誌「ENGINE」に連載したものを再録したものです。

第17回 カバン・コレクション 2002年02月

リモア

 家の戸棚を整理していると、やたらとたくさんの旅行トランクやバッグがでてきた。30個は優に超える。中には持っていることを忘れていたものもある。そういえば、海外に出かけたとき、なんとなくバッグを買ってしまう癖があるような気がする。洋服に比べて試着の必要がない気安さもあって、偶然入ったお店に気にいったものを見つけると思わず買ってしまう。
 女のひとが、やたらとハンドバッグを買う心理が分からないと思っていたが、僕も彼女たちのことをとやかく言えない。彼女たちがブランドネームに惹かれるのと違い、僕を含め男性の場合は機能という側面からトランクやバッグにフェティッシュな魅力を感じてしまう傾向がある。特に旅行用のトランクは、女性より男性の方がこだわりを持っているのは間違いない。空港で女性の旅行者が引きずっているのは、どれも個性のないプラスチック製のものばかり。身につけているブランド品のハンドバッグに較べるとあまりにアンバランスなのがその証拠だろう。
 僕はといえば、すこし長めの海外出張に出かける際には、ドイツ製の「リモア」のトランクを愛用している。今では日本でもポピュラーになったアルミ製の、まるで地下鉄の車両をイメージさせる、シルバーの表面が波をうっているやつ。キャスター部分が頑丈に出来ていて、まったく壊れる気配を見せない。アルミ素材はそれ自体軽く、そして柔らかいので、空港でバゲッジクレームから出てきたとき、ベコベコにへこんでいたりすることがあって悲しくなるけれど、あとで内側からたたいてやると元にもどるし、酷使に耐えるナンバーワンのトランクだと推薦できる。
 アルミがへこむことで衝撃を吸収し、壊れにくいのだろう。「リモア」に出会う前には、機能が売り物の有名メーカーのハードケース・トランクを大枚はたいて買ったりしたが、ボディが頑丈なのはいいけれどすぐにキャスターの部分や取っ手が壊れてしまい、旅先でとんでもなく重たいただの箱となってくれたことを幾度か経験した。
 「リモア」のトランクは、大型サイズを2種類と、機内持ち込み用のサイズの計3個を使っている。
 最近は、荷物をなるべく少なくして、布製のガーメントバッグと、機内に持ち込めるサイズのトローリーバッグだけにする努力をしている。旅先では身軽であることが重要、と今さらながら感じているからだが、旅支度というのはやっぱりムズカシイ。その試行錯誤の果てが僕の大量のカバン・コレクションということになるのだろうか。

吉田カバン

 身軽であることが重要なのは、日常においても同じこと。それは、分かっているのだけれど、なんだかんだと持ち物が増えてしまい結局はバッグに入れて持ち運ぶことになる。僕が普段持って歩くバッグは、手提げ、ショルダー、リュックを含めて圧倒的に「吉田カバン」の製品が多い。今、使っている黒のレザーのA3サイズの手提げは、コムデギャルソンとのダブルネームの「カツユキ・ヨシダ for コムデギャルソン」。中がふたつの部屋に分かれていてそれぞれにジッパーが付いている。女性用としてデザインされた商品だが、男性用にしては中途半端に小さなサイズが気に入っている。今や若い男性に圧倒的に支持をうけている「吉田カバン」だが、一見「吉田カバン」に見えないところも気に入っている理由のひとつだ。
 「吉田カバン」のブランド「ポーター」を知ったのは、80年代の前半に初めて行ったニューヨークで、当時有名だったブティック「サンフランシスコ」のショーウインドウのディスプレイがすべて「ポーター」のナイロン製バッグで埋めつくされているのを見た時だった。サープラスをモチーフにしたシリーズはとても新鮮で、日本のブランドがニューヨークでも一番お洒落と言われているブティックに華々しくディスプレイされているのが、日本人として誇らしくもうれしかった。
 その後、デザイナーの吉田克幸氏本人と出会い、大の仲良しになったこともあり、それ以来、カツさんのバッグはいつも僕の身近にある。彼の作り出すバッグには、機能を追及していった結果生まれる独特の美しさがある。
 女性に人気のある高級海外ブランドのバッグはほとんど持っていない。自分のライフスタイルに似合わないのと、価格が高すぎて気軽に衝動買いできない、というのが理由だろうと思う。僕にとってバッグは、いつでも衝動買いするアイテムであって欲しい。構えて買いにいこうというものではない。

エルメス

 唯一、持っている高級ブランドのバッグ。それは1年前にニューヨークに行ったとき、偶然、ショップ・オープンの翌日に入ってしまった「エルメス」のもの。見学のつもりで入ったので、スタッフに声をかけられたら、いつものように「ジャスト・ルッキング」と答えてほっておいてもらおうと思っていたのだが、そこはさすがにニューヨークの「エルメス」フラッグシップ・ショップ!なんと日本人の女性ショップ・スタッフに接客されてしまった。
 これまでも、海外の有名ブランドのショップで日本人スタッフに出会ったことはあるが、こちらがそう思っているだけかもしれないけれど、日本人のお客さんに対してツンとした態度に感じられることが多かった。でも、「エルメス」は違いました。彼女の最高の接客で、オープンしたばかりの店内を30分以上かけて案内されてしまった。
 こうなると、そのまま帰るのも気が引けて、なにか買わずにはすまない。そういう心理状態に追い込まれ……、お店の商品の中でもっとも低価格の、黒のレザーのポシェットを買ってしまった。25センチほどの正方形の、金具もなにも付いていないシンプルな袋に幅5ミリほどの細い革ひもがついているだけ。どこにもロゴが入っていない。300ドル。
 買った時には、ちょっと「とほほ」な気分だったのだけれど、このポシェットは大正解だった。財布と小銭入れと携帯電話を入れられるくらいのサイズがとても便利で、購入以来いつでも持っている。スーツを着た時もわざとこのポシェットを肩から斜めに掛けてちょっとドレスダウンした雰囲気。ポケットにモノをいれないことで、スーツのシルエットもきれいに見える。今では、僕のトレードマークのようになってしまった。自分では、お洒落なつもりでいるのだけれど、たいていはそう見られないのが残念。民芸調のハンドクラフト屋さんのものじゃないです。
 必要最低限のものが入るこのポシェットを手にいれたら、手に持つバッグは逆になんでもかんでも入る、大きな手提げのバッグが欲しくなった。そんな時に見つけたのが、大型のレザーのトートバッグだ。布製のトートバッグは女性にものすごく人気があるが、男が持つバッグとしては、ちょっと女性的で気が引けると思っていたところに、まさに大人の男性のために作られたトートバッグがあった。

ISABURO 1889

 それは、青山にあるメンズのラゲッジブランド「ISABURO1889」のショップが受注生産でオーダーを受けてから、ハンドメイドで2ヵ月かけて作ってくれる特別な商品。受注生産なので、外側のレザーと内張りの布をそれぞれ何色からか選ぶことができる。僕は、レザーがネイビー、中の布地がグレーというコンビネーションにしてもらった。レザーは、硬めの牛革キップスキームのスムース。内側のレザー部分に自分の名前を型押ししてもらえるのはオーダーならではで、価格は12万円。値段も張るけれど出来上がってきた商品を見て納得できた。このブランドは日本の職人の技にこだわってモノづくりをしている。
 これでしばらくは、バッグを欲しくなることはないだろう。と思っていたが、今度はこのトートバッグに入れるモノを種分けするためのセカンドバッグが欲しいと思い始めた。こうして、永遠に新しいバッグが増え続けていく……。

Back Number

2000年10月
第1回 テスタロッサが止まらない
2000年11月
第2回 ミラノはスマートがいっぱい
2000年12月
第3回 レクター博士の石鹸
2001年01月
第4回 F1日本グランプリ
2001年02月
第5回 最後の晩餐
2001年03月
第6回 ファッション・ケア レジュイール
2001年04月
第7回 東京オート・サロン
2001年05月
第8回 サイド・バイ・サイド
2001年06月
第9回 オホーツク劇場を目指して
2001年07月
第10回 コレクション・ツアー
2001年08月
第11回 オートバイ
2001年09月
第12回 赤ちょうちん
2001年10月
第13回 悩み続けて18年
2001年11月
第14回 キッチン・ヴァージン、料理に挑む
2001年12月
第15回 最近、どんなスーツ着てますか?
2002年01月
第16回 隠れジンギスカン・マニア
2002年02月
第17回 カバン・コレクション
2002年03月
第18回 ピニンファリーナ・コレクション大中小
2002年04月
第19回 ナッパ・レザー
2002年05月
最終回 ウシ君と全部で6匹のネコ

ページトップへ